2006年 05月 13日
世界の片隅の詩 |
高校生だった冬の日
廃止の噂も流れた
赤字ローカル線の客車の中で
同じ中学出の同級生が
英語の辞書を読んでいた
窓は白くくもったまま
発車時刻まで客車は止まったまま
静寂の膜の中で
彼はしげしげと辞書を読んでいたのだ
私は軽くめまいを覚えた
辞書を読書する男を初めて見たもので
私はまだ知らなかったのだ
辞書もまた一冊の書物であることを
今の私は知っている
辞書を読んでも世界が分かりはしないことを
ただその時の私は
彼にだけ
世界のすべてを知られそうで
世界の秘密を覗かれそうで
訳もなく恐ろしく
あわててヒモでも引っ張って
世界に幕をかけてしまいたかった
彼を困らせてでも世界を隠してしまいたかった
彼は頭が良かったし
その後も徹底的に
読書をすすめているのかもしれない
世界中のあらゆる言葉を取り込んでいるかもしれない
「だが安心したまえ」
今、ここで書かれつつある詩
この詩→という世界の片隅
(そこにある僕のリアル)
は
まだ、彼も知らないらしい
(1998・12/森静野)
廃止の噂も流れた
赤字ローカル線の客車の中で
同じ中学出の同級生が
英語の辞書を読んでいた
窓は白くくもったまま
発車時刻まで客車は止まったまま
静寂の膜の中で
彼はしげしげと辞書を読んでいたのだ
私は軽くめまいを覚えた
辞書を読書する男を初めて見たもので
私はまだ知らなかったのだ
辞書もまた一冊の書物であることを
今の私は知っている
辞書を読んでも世界が分かりはしないことを
ただその時の私は
彼にだけ
世界のすべてを知られそうで
世界の秘密を覗かれそうで
訳もなく恐ろしく
あわててヒモでも引っ張って
世界に幕をかけてしまいたかった
彼を困らせてでも世界を隠してしまいたかった
彼は頭が良かったし
その後も徹底的に
読書をすすめているのかもしれない
世界中のあらゆる言葉を取り込んでいるかもしれない
「だが安心したまえ」
今、ここで書かれつつある詩
この詩→という世界の片隅
(そこにある僕のリアル)
は
まだ、彼も知らないらしい
(1998・12/森静野)
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by mori-shizuno
| 2006-05-13 20:00
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